こんにちは。
海の見える小田原の農園でフルオーガニックレモンを作っています。
新規就農から6年、専業農家になって3年経ちました。
「なんで農家に?」とよく聞かれるので、私の事例を記したいと思います。
最大の動機は「欲しいレモンが無かったから」なのですが、そこに至った経緯も大事だなと思うので、何かの参考になれば嬉しいです。
Contents
前職はシェフ
イタリアンレストラン、スパニッシュレストラン、NYデリを東京と神奈川で展開していました。
当時は「レストラン3軒のオーナーシェフです」と言うとチヤホヤされたものですが、今は「農家です」と言うとその瞬間に上から目線でものを言われたり相手にされなくなったりします。
たまに一流企業からオーシャンレモンに仕事のオファーが来るのですが、こちらの都合を一切顧みない失礼な物言いにビックリします。
#丁重にお断りします
農家になって良かったことのひとつに、お付き合いしていい人、しなくていい人がわかりやすくなった事を実感します。
これは本当に楽チン。
幸せ。
昔は多くの人に囲まれ、自分は重要な人間だと心から勘違いしていました。
現場にいると、渦中にいると、その世界しか見えなくなります。
仲間やライバルに対して「どうやって勝つか」しか考えられなくなっていました。
その挙句、タワマンに住もうとしたり、外車を買おうとしたり。
もちろんそれ自体を否定するわけではないのですが、私の場合はストレス発散や生きている実感が、消費する事でしか感じられなくなっていたのです。
企業の宴会を取るために接待の毎日。
他企業の重役たちの価値観に囚われ染まる毎日。
勝つために嫌な仕事もする。
稼いだお金を使って嫌なことを忘れる。
そんな繰り返しに人生を使っていました。
農家になろうと決めた瞬間
ある日。いつものように。
中目黒での接待から銀座方面へ帰宅する真夜中のタクシーの中で。
メーターが6,000円を超えたあたりで。
道路工事のガードマンを見ながら東京から撤退しようと唐突に決意しました。
自分が欲しかったレモンを、農家になって育てているイメージが浮かんでいました。
タクシー後部座席での決意は翌朝になっても消えていませんでした。
レモンの香りや手触りがありありと脳内にありました。
私の知らない間にレモンのタネが育っていて、花が咲いて実がなって、それを収穫したのがあのタクシーの中でした。

レストラン事業をすべて売却し、関係者に農家になると報告して回った時は、多くの方から「都落ち」的な扱いを受けました。
露骨に負け犬を見る目、哀れみ、蔑みの態度を取られる方もいました。
そんな中でいただいた、印象的な言葉が2つあります。
大好きなワインショップのマダムが「最先端の職業じゃん!」とキラキラした眼で瞬間的に返してくれた事。
90年続くお豆腐屋の3代目社長が「サムライの次に偉い職業だな」と言ってくれた事。
#士農工商
生涯心の中を温かくしてくれる言葉になりました。
自分もそんな言葉をかけられる人間になりたいです。
農家としての暮らし
結論として、私は農家になって良い事しかありません。
自然の中では毎日もの凄いことが起きています。
それを身近に学べることに深い喜びを感じます。

自分たちとお客さまの幸せのために仕事ができています。
たくさんの方のお役に立てている実感があります。
これ以上幸せなことってあるんでしょうか。そんな気持ちです。

食べ物はいざとなったら自給できるのであまり不安がありません。
田舎は家賃が少ないです。
謙虚に誠実に生きていれば地域は受け入れてくれます。
お金はあまり入ってこないけどそれ以上に出ていきません。
家族、愛犬との距離がいつも近いこともとても幸せなことです。
すごくシンプルな毎日を送っています。
誰のために仕事をするのか。
何のためにお金を稼ぐのか。
生きる目的は何なのか。
自分なりの答えに近づけていっているような気がします。
農業は厳しい仕事です。
ですが工夫しがいのある仕事でもあると感じます。
世の中には安価で使わせてもらえるプラットフォーム、アウトソーシングがたくさん揃っています。
商品とマーケティングと経営の軸が持てれば、既存の組織や枠組みに頼らずひとりでもマネタイズは可能です。
人生は競争ではない。
幸せは手の届く範囲にある。
そんな気づきをもらえた仕事でした。
長い話にお付き合いいただきありがとうございます。
最後に、食べ物を作ってくれる世の中すべての農家をリスペクトします。
そしてこれを読んだ方に心穏やかな時間がたくさん訪れますように。

湘南ワインセラー
鎌倉、葉山にあるワイン専門店。
世界中の自然派ワインからボルドー、ブルゴーニュの名醸まで。
とちぎや
すべてにこだわり抜く逗子のお豆腐専門店。
大豆の栽培や子供達の食育にまで全力投球されています。